『ガイア理論(ガイア論)
ガイア理論(ガイアりろん)とは、地球と生物が相互に関係し合い環境を作り上げていることを、ある種の「巨大な生命体」と見なす仮説である。ガイア仮説ともいう。
生物学者リン・マーギュリス、気象学者アンドリュー・ワトソンなどが支持者に名を連ねる。』
ガイア論の中では、ガイアは一個の生命体であるとされる。宇宙という大海原に浮かぶひとつの生命体なのだ。
とてもロマンチックで、キャッチーな考え方だ。夢があって、愛にあふれている。いかにも人が好きそうな言い方だ。「宇宙船地球号」という考え方があったが、それより数段ロマンチック路線で勝っている。
「地球はそれで、一個の生命体なのだ」
なんでそんな突拍子もないことを言えるのか?
その根拠としては色々挙げられるのだろうが、特に挙げられるのは「ホメオスタシス」だろう。「ホメオスタシス」というのは十数年前の生物学会でにわかに流行りだした言葉で、日本語で言うならば「恒常性」となるのだが、これもまた学者が大好きな、良く分からない日本語チョイスだ。簡単に言えるなら、「内部環境自己調節機能」だろうか。
たとえば、ちょっとお水を飲み過ぎました、吸収されます。すると血が薄くなる、薄すぎるとまずいので、腎臓で水をおしっこに変えようとする生理作用が活発になって、おしっこいっぱい出た挙句、血の濃さがもとに戻ります。
たとえば、病原菌が入ってきて、変な物質たくさんだします。これを感知して、免疫細胞がたくさん生み出されて、戦って、病原菌を殺します。
みたいな感じだ。
これがホメオスタシスだ。自分の中で調整できる、という能力はなかなか素晴らしいな、生物の生物たる理由のひとつである、と言う人もいる。
地球という大きな球体が、空気の部分も含めて、おーーーーっきな生命体なのだ。
たとえば、ちょっと隕石が落ちてきて、地球の大気の温度が1℃くらい上がっちゃったとしても、それによって生物全体の活性が上がって、たとえば植物の成長が早くなることで、大気のガスのバランスが変わって、熱が放散されやすくなって、長い目でみたら結局、温度は元通り。
ひょんなことからライオンが大発生したら、そこらじゅうにライオンがいたら、怖い。そうすると、ライオンが餌にしている動物が激減する、激増したライオンによって。そうすると、巡りめぐって挙句、ライオンの数もちょうどよくなる。
このように、ガイアという生命体は、体の中にある異常をきたせば、それを勝手に自律的に治癒する能力がある、という解釈なのだろう。
比喩を許せばガイアは、ある程度の病気は自分で勝手に治せるんだぜ、ということだろう。
絶妙なバランスを保って、複雑な繋がりを保って、ガイアは健康な状態を維持できるのだ。
いや、違う。言い直そう。
絶妙なバランスを保って、複雑な繋がりを保って、ガイアは健康な状態を維持できていたのだ。
産業革命までは・・・。
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今から数えてほんの700万年前に生まれた彼らは、最初は他の肉食動物に怯えて暮らすような臆病なサルだった。
それでもあるとき火を使うことを覚え、辛うじてガイアの生態系の中に存在を許された。他の動植物がやるのと同じように、ガイアの絶妙なバランスを保つ一員として暮らしてきた。
ガイアにとっては、事件はほんの昨日のことなのだろう。
現在から数えてちょうど300年前、蒸気機関という仕組みが発見されてから、ガイアの一部であるニンゲンはガイアの貴重な蓄えに目をつけた。
ガイアは長い年月をかけてその蓄えを生み出し、腹の底に抱え込んでいた。彼らはそれに目をつけたのだ。
まずは石炭から始まった。次に石油。
ガイアの体の一部分であったはずのニンゲンは、急速にガイアの血肉を使い始めた。
それを皮切りに、ニンゲンの増殖力は留まることを知らない。ガイアの肉を喰らい、血をすすり、ガイアの他の組織である動物、植物を駆逐しだした。
彼らニンゲンは、ほんの700万年前に生まれた比較的新しい細胞だった。
それが今や、ガイアの蓄えを喰い尽くさんばかりの勢いで増殖を続けている。ガイアにほんの少量存在するだけの貴重な金属も喰い尽くそうとしている。
ガイアは今、病気だと頻繁に言われる。ニンゲンという反乱分子を腹に抱え、体のあらゆる部分が破壊され続けている。
発熱すらしている。ガイアの体温は上昇し続けている。
ガイアの自己調節機能、ホメオスタシスはどこにいったのだろうか?
ガイアの免疫は、彼らを駆逐してはくれないのだろうか?
誰か、彼らを止めてくれないのだろうか?
このままではガイアが死んでしまう。
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さて、
地球上に生きている生き物の体というのは、小さな細胞からできている。一つひとつの細胞が生きていて、それらが寄り添って一個の生命体を作り上げている。
例えば一人の人間はだいたい60~100兆個の細胞から構成されているらしい。
一つひとつの細胞はお互いに協力したり、化学物質を使ってコミュニケーションをとったりして、絶妙なバランスのもとで、一個の生命体の生命活動を支えている。
一つひとつが欠かせない役割を持っていて、全体を構成しているわけだ。
例えば、血を作る造血細胞というのがあるのだが、彼が勝手に馬鹿みたいにガンガン増殖を始めちゃうと、血が固まりやすくなって、血管が詰まったりして大変になるから、いい塩梅で増殖するように調整されている。
例えば、病気になったときに作られる免疫細胞が、病気との戦争が終わった後も居残り続けると、逆に自分の細胞を攻撃しちゃうから、戦いが終われば勝手に死ぬようにプログラムされている。
増えすぎず、減りすぎず。生き続けず、死に過ぎず。これを保つために、一つひとつの細胞には寿命があったり、死ぬことが運命付けられていたりする。
細胞の増殖には限度数が設定されていて、もうこれ以上増えちゃだめです、ということを決める遺伝子がある。
しかし、長く生きれば、遺伝子のコピーにもエラーが起きる。
エラーが起きた末、増殖を自分で抑えられなくなった、無尽蔵に増殖することが許されてしまった細胞が生まれることがある。
これが、癌だ。
『
悪性腫瘍(あくせいしゅよう、英: malignant tumor)は、他の組織との境界に侵入したり(浸潤)、あるいは転移し、身体の各所で増大することで生命を脅かす腫瘍である。
一般に癌(ガン、がん、英: cancer、独: Krebs)、悪性新生物(あくせいしんせいぶつ、英: malignant neoplasm)とも呼ばれる。
「がん」という語はほぼ「悪性腫瘍」と同義として一般的に用いられ、本稿もそれに倣い「悪性腫瘍」と「がん」とを明確に区別する必要が無い箇所は、同一語として用いている。
身体を構成している数十兆の細胞は、分裂・増殖と、「プログラムされた細胞死」を繰り返している。正常な状態では、細胞の成長と分裂は、身体が新しい細胞を必要とするときのみ引き起こされるよう制御されている。すなわち細胞が老化・欠損して死滅する時に新しい細胞が生じて置き換わる。ところが特定の遺伝子に突然変異が生じると、このプロセスの秩序を乱してしまうようになる。すなわち、身体が必要としていない場合でも細胞分裂を起こして増殖し、逆に死滅すべき細胞が死滅しなくなる。
』
無尽蔵に増殖できちゃうことを許された細胞。
癌細胞においては、前述の
「細胞の増殖の限度数を設定する遺伝子」
が機能しなくなっている。
ある種の生物学者や医学者は、ここに不老不死のヒントがあると考え、この遺伝子を研究している。
だとしても、他の細胞と協調の取れなくなった細胞、癌。
自らの機能を忘れ、ただ増殖し続ける細胞。
挙句、自分の場所を飛び出し転移を繰り返す。
止まることも、戻ることも忘れた、悲しい細胞、癌。
(後編につづくのだ)
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